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Thursday, June 16, 2022

味を遠隔地に届ける「テレテイスト」、味分析と味再生で実現狙う - ITpro

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食品分野でのデジタル技術の活用が一層進んでいる。ヒトが感じる「しょっぱい」などの感覚を電気的に制御する「電気味覚」について、キリンホールディングスが研究成果を発表した。減塩食でも普通の食事と同等の塩味を再現できたという。山形大学は、3Dプリンターによってフードロスや介護食などの食に関連した社会課題の解決を目指す。味のデジタル出力技術と味覚センシングを組み合わせることで、遠隔に味を届ける“テレテイスト”実現の未来もみえてくる。

 健康食、介護食、フードロス問題といった、食に関する社会課題をデジタル技術で解消する技術開発が活発になってきた。

 その1つが、ヒトの感じる味を操作する「電気味覚」技術だ。微弱な電気信号によって、食品中のイオンの動きを制御したり、舌の膜電位の変化を模倣して味を錯覚させたりする技術である。この技術を活用すれば、減塩食の塩味を強化することができる。

 キリンホールディングス(以下、キリン)と明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科教授の宮下芳明研究室は2022年4月、0.5mA以下の微弱電流を発生させる箸型デバイスを開発したと発表。減塩食を模したサンプルの塩味を、実際よりも強く感じさせることに成功した。

 この箸型デバイスは片方の先端に電極が付いており、電流を流して食物に含まれるナトリウムイオン(Na)の動きを制御する(図1)。箸を口に入れた直後に電流を流し、電極付近に塩味の原因物質であるNaを誘引させる。その後電源を切ると、高密度のNaが一度に移動するため舌と当たりやすくなり、塩味が増強されるという仕組みだ。箸から流す電流は0.5mA以内で、この程度の電流ならば、ヒトの舌にピリピリした感覚を催さず、味を損なわないという。

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図1 塩分控えめでもしっかり塩味

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図1 塩分控えめでもしっかり塩味

キリンホールディングスと明治大学が共同開発した塩味増強技術の概要。Na+が舌に当たる確率を向上させることで、塩分控えめでも元と同等の塩味の強さを再現する(a)。専用デバイスも開発した(b)。現在は箸と腕時計型のデバイスに分かれているが、今後は箸の中に制御装置も内蔵する。(出所:キリンホールディングスの資料を基に日経クロステックが作成)

 実験では、一般食品を模したサンプルA(食塩0.80%含有)と、減塩食を模したサンプルB(食塩0.56%含有)の2種類のサンプルを用意(図2)。感じた塩味の強度を評価する官能試験を実施した。その結果、電気刺激を加えたことで、サンプルBの塩味は1.5倍増強され、減塩食でありながら一般食品と同じくらいの塩味を再現できたとする。

図2 塩味が約1.5倍増強された

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図2 塩味が約1.5倍増強された

ヒトが感じる塩味強度の、サンプルごと/塩味増強技術の有無による比較。塩味増強技術を用いることで、食塩含有量が3割低くても本来の食品と同等の塩味を再現できることがわかった。(出所:キリンホールディングス)

 塩味が感じられる減塩食を実現するためのアプローチとして、電気味覚の他にも、カリウム系の代替塩などがある。ただ、代替塩は塩味の再現性が低いという課題があり、普及が進んでいない。

 競合技術のこうした鈍足の一方、キリンは電気味覚の早期実用化に自信をにじませている。ゲルのような単純なサンプルだけでなく、減塩みそ汁のような実際の食事でも効果があることを既に確認しているからだ。「2023~2024年頃に事業化したい」(同社 ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループの佐藤愛氏)とし、実用化の際には箸型デバイスと減塩食をセットで販売する予定である。

 同じく電気味覚を研究する、東京大学 先端科学技術研究センター特任講師の青山一真氏は、より使いやすいデバイスを開発中だ。キリンの試作品が箸を電極として利用するのに対して、同氏は顎と首の後ろの肌にそれぞれ電極を取り付ける。箸型デバイスの場合、箸を口から離すとイオンの動きを制御できなくなってしまうが、体表面に設置すればその制約を受けなくなる。したがって、塩味の強度や持続時間などをより自由にコントロールできる。

 ただし、体に電極をつけたまま食事をするため、食べにくい、見栄えが良くないといった実用上の課題は残る。同氏の研究室では、口の中に小型電極を入れる研究も進めている。

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