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Friday, July 29, 2022

BTSはいかにしてARMYに愛され、ARMYに何を与えたか。「推し活」で自分を愛し、世界とつながる【2022年 上半期回顧】 - ハフポスト日本版

「推し」を推すことを通して自分を発見すると同時に、世界と繋がる実感が得られる。一人だけど独りじゃない。これは、とても現代的な感覚とも言えるし、異なる見方をすれば、かつて風や雲がそこに在るだけで独りじゃないと感じていた人間たちの感覚を、別の形で復刻したものとも言えるかもしれません。

「推す」行為が持つ危うさ

ただし、推す行為にはただのファンにはない過剰さがあって、それは「推し」を通してかりそめの主体性をなんとか手に入れようとする切実さであり(※4)、そういう過剰さに対する自覚がないとすれば、危ない面があるかもしれません。

私たちは誰でも多かれ少なかれ、他者を「使用」することで主体化を実現します。私たちが使っている言語さえ、もともとはすべて他人から与えられたものであることを思い返せば、他者を使用せずに主体化するなんて、どだい無理な話だということに気づかされます。

「推す」行為は「推し」を通した刹那的、情動的な主体性獲得の運動であり、まさに推しを「使用」する運動なのですが、このことに自覚的でない人もいます。推しを推すときに、人は推しの輝かしさだけでなく、推しのずるさや不完全さを自らの主体に一致させることを通して、不甲斐ない自分を愛でています。

しかし、そのことに無自覚になり、推しが使用できなくなったと感じた瞬間に、推しに対して攻撃的になることもあります。推しがまるで自分の主体化を妨げる存在のように感じられて憎み始めてしまうのです。

敵をあえて作り出して鏡としての自己を権威化することで主体化を果たしたにもかかわらず、言い換えれば、敵という他者を使用して主体化を実現したにもかかわらず、そのことを隠蔽してしまうのがレイシズムの問題だとすれば(※5)、「使用」に無自覚なファンたちは、「推し」が私の主体化を支えてくれたという事実を忘却することで、易々とレイシズムに近接します。

そのことを踏まえれば、先のRMのLove Yourselfツアーでのスピーチは、私たちがどのように自分自身を愛したらよいかを説くだけでなく、私たちに「使用」に対する自覚を促しているとも言えます。このことを踏まえれば、彼のスピーチは次のように捉えられるでしょう。

僕は、あなたたちARMYを使用することで自身が自己変容を遂げてきたことを感じます。一人では立ち行かない僕は、あなたたちを使用してきたことを知ることで、あなたたちに深い敬意と感謝の念を抱くようになりました。そしてそのことを通して、自分を愛するということを学んできました。だからAMRY、あなたたちも、僕を使用してください。僕たちを使用することで自己を変容させ、自分を愛することを学んでください。

とは言え、自分を愛することは何なのか、あなた自身を愛するとはどういうことなのか、いまだ僕にはわかりません。なぜなら、自分自身を愛する方法や法則を定義することなど、僕たちにはできないからです。一人ひとりが使用を通して自分自身の愛し方を見つけ、明らかにしていくことが僕たちの任務なのです。

推し活の心理は、「消費行動」を促す資本主義との相性が抜群にいいです。

BTS(にとどまらず、他のK-POPグループや、日本のSixTONES、櫻坂46などのアイドル)の運営はそのことに自覚的で、まさにその心理を利用して稼いでいるわけですが、もし自分が主体化のために彼らを使用しているという自覚さえあれば、資本主義の快楽に溺れることなく、適切な距離感で推しとつき合っていくことができるのではないでしょうか。

BTSが音楽やスピーチを通して放つメッセージの中には、私たちが健やかであるためのヒントが含まれているし、大人のARMYたちは、それを彼らから読み取ることに成功しています。

※注1…YouTubeなどの動画投稿サイトを通したBTSの魅力の発信には、ARMY翻訳家と呼ばれる有志たちの働きや、自動翻訳機能の発達という条件が欠かせなかった。『BTSとARMY わたしたちは連帯する』(イースト・プレス)

2…2017年のBTSワールドツアーのバックステージを描いたYouTubeのドキュメンタリー「BURN THE STAGE」では、彼らがドキュメンタリーを通して自分たちの人間性をそのままARMYたちに見せて、その解釈を自由に任せることを積極的に支持する様子が活写されている。

3…Love Yourself ツアーにおける彼らのメッセージを余すことなく伝える楽曲が、ツアーのアンコールで歌われた“Answer : Love Myself”です。聞きなじみのよいこの曲の歌詞の意味を知って、むせび泣いた、いまも心の支えにしているという人を、私は何人も知っています。

4…宇佐美りん『推し、燃ゆ』はまさにそういう話で、そこで描かれた推しの炎上は、まるで私たちの生を清らかにするために生贄を焼く儀式のようでした。

5…「使用」と主体化の問題、レイシズムの問題については、國分功一郎・千葉雅也『言語が消滅する前に』で詳細に議論されている。レイシズムの問題についてはBTS自身が積極的に発信しており、2021年に世界で最もリツイートされたツイートは、BTSが #StopAsianHate とフォロワーに呼び掛けたものだった (Twitter調べ)。また、彼らの楽曲 Butter のイメージカラーがイエローだったことについて、RMはV LIVEの中で「僕たちは黄色人種じゃないですか」と発言しており、同曲MVでも、白黒黄の3色を基調に、グレーやレインボーカラーの衣装を披露していることから、レイシズムに対する何らかのメッセージの隠喩として受け取ることは難しいことではない。そのことを踏まえると、この曲の冒頭の歌詞、“Smooth like butter” はかなり挑発的に響く。

(文:鳥羽和久 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

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