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Saturday, October 15, 2022

居留地ホテルや船の味 - 読売新聞オンライン

 神戸といえば洋食。カツレツ、カレー、オムライス――。そこかしこに名店があり、食欲をそそる。海外の食文化がいち早く根付いた港町だが、その「おいしさ」のルーツはどこにあるのだろう。食べ歩きながら探してみた。(鈴木彪将)

 まろやかなルーに玉ネギの自然な甘み。後から香ばしさが広がる。阪神西元町駅近くのカレー店「Sion」(神戸市中央区)のビーフカレーは、丁寧にいためた玉ネギとフライドオニオンをブイヨンに加える「ダブルオニオン」製法が特徴。外国人居留地に1870年に誕生したオリエンタルホテルに勤めていたシェフが開いた店で、ホテルの味を受け継いでいる。

 「神戸に伝わる洋食の味のルーツは、主に三つに分けられる」。情報誌「ミーツ・リージョナル」元編集長で、神戸の洋食を長年研究する神戸松蔭女子学院大教授、江弘毅さん(64)は語る。「オリエンタルホテル」「豪華客船のコック」「戦後に開業したグリル一平」だ。「神戸のシェフたちは1890年代、1900年代の洋食の味を今も大切にしている。独特の食文化といえるだろう」

 神戸市営地下鉄海岸線みなと元町駅近くの「グリルミヤコ」(同)のテールシチューは、肉とデミグラスソースの周囲をマッシュポテトで囲う。先代店主が豪華客船のコックで、揺れる船内でもソースが皿からこぼれないように工夫した盛りつけ方が今も残り、船のコックが陸にあがって店を開いたという港町ならではの歴史を感じさせる。深みのあるソースは先代の頃から何十年も継ぎ足しては精製し、使っている。

 1952年創業のグリル一平は市内で3店舗を展開。看板メニューのオムライスは、秘伝のデミグラスソースと薄く焼いた卵で包んだライスとの相性が抜群だ。

 ただ、時代が移り、各店舗では伝統の味の継承が課題になっている。

 「Sion」では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、70歳を超えていたオリエンタル出身のシェフ2人が引退。オーナーの一枝淳治さん(54)が自ら 厨房ちゅうぼう に立つが、「コロナ禍で、飲食業の未来は見通せなくなった。昔ながらの味を楽しみにしてくれる人のために守りたいが、次の世代に渡せるかどうか……」と不安を口にする。

 一方、トアロードで3月にオープンした「グリルDAITO」のオーナーシェフ、大東文彦さん(48)は、船の元コックで約80年続いた洋食店を開いた祖父らの味を守るため、この世界に飛び込んだ。受け継いだ味に、和風のテイストを加える新しい試みにも挑戦。「神戸で洋食というジャンルを続けたい」と意気込む。

 グリル一平でも、レシピを学んで独立し、店を構える料理人たちが現れるようになった。

 洋食文化を発信する「日本洋食協会」(東京)の岩本忠会長(47)は洋食について、膨大なメニューの仕込みや食材管理などの負担が大きく、味を完成させるまで数年以上の修業を要することなどを挙げ、「外食業界で一番、もうからないと言っていいほど難しいのでは」と指摘する。

 いつの時代も、神戸の街とともにある洋食。この味がいつまでも続くことを願い、おいしく味わいたい。

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