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Sunday, December 18, 2022

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新潟アイス屋の“ぶっ飛び”広告が4日で1000万再生、売上は3倍に 広がる「ローカルCM」の可能性

2022年12月19日(月)(オリコン)

SNS上で話題となった“少女漫画風”のセイヒョーCM

SNS上で話題となった“少女漫画風”のセイヒョーCM

 新潟のご当地アイス『もも太郎』で知られるセイヒョー。先月、おじいちゃんとおばあちゃんが学生服を着て“少女漫画風”に恋に落ちる動画が『アイス屋さんがCMに本気を出した結果』と題してネット上で公開されると、「ぶっ飛んでて好き」「こんなに目が離せないCMはじめて」などのコメントが寄せられ、再生数はわずか4日で1000万回を超えた。大正5年創業の同社がいま、CMで“本気を出してきた”理由とは。

【動画カット】「とぅんくで吹いた」まるでシニア版花男!?な新潟アイス屋CM

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 動画の物語はこうだ。出演者はすべて高齢者。女学生に扮したヒロインは、学園内で同社のかき氷バー『もも太郎』を堪能しながら歩いている。そこに高慢で俺様キャラの財閥の御曹司“佐渡”と衝突。“佐渡”はヒロインに突如、「お前今日から俺の召使いな」と言い放つ。

 当然、反発するヒロイン。だが“佐渡”は「うるせぇ口だな」と、そのヒロインの頬をがしっと手で掴み、その目を覗き込む。強引なアプローチにヒロインは思わず「とぅんく」と、ときめいてしまう。うっとりと目をつぶるヒロイン。佐渡はその口に、同社のアイス『佐渡の藻使用塩キャラメル』を送り込む。

 何もかもが予想外の俺様行為。思わずヒロインは「何?この濃厚なハーモニー。これがオトナの味ってワケ?」と、“佐渡”とその味に心を奪われる。──その様子を遠目で見ていたのは学園のお金持ちたち、“牛乳バニラ”、“越後姫”、“村上緑茶”、“ル レクチェ”の4人。同社のアイスセレクションの商品の擬人化だ。そして“ル レクチェ”はこうつぶやく。「フ~ン、オモシレーオンナ」……。

 同web CMを制作したのは、クリエイティブディレクターのセカイ監督。シュールで“面白い”に特化した映像広告を制作する新進気鋭のクリエイターだ。セイヒョーの商品は基本的に県内販売であることもあり、それまでシンプルに商品名を訴求するローカルCMのみを制作していた同社は、今回のセカイ監督の起用理由をこう明かした。

「今夏より、SNSマーケティングに力を入れて取り組んでおります。これまでは正統派のテレビCMを制作しておりましたが、SNSで話題になるにはそれとは異なるアプローチが必要との提案とアドバイスを受け、SNSの運用に実績のあるセカイ監督をご紹介いただきました」(セイヒョー経営企画室・阿部千晶さん/以下同)

■「日本の変なCM」中国でも話題に、新潟のソウルフードが全国に拡大

 そして今年7月、その一発目となる『放送事故すぎるアイス屋さんのCM』が発表された。高齢の役者が学生に扮し、公園と河川敷を舞台に胸キュン青春劇を繰り広げるCMは早速話題に。TikTokで100万再生されるほどの大ヒットとなった。その結果、2作目である先述の動画CMが制作されたというワケだ。本作は、Twitterに発表して4日で1000万回再生を突破。阿部さんも「まったく規模が分からないくらいのバズり方。狙ってできるものではない」と舌を巻く。

「そもそもセカイ監督には、新潟では知られているものの全国的にはあまり知名度が高くない『もも太郎』というアイス、それとセイヒョーという会社を周知していきたいということをお伝えしました。そこで敢えて、学園ドラマあるあるで広く共感を呼ぶテーマを選択。セイヒョーが老舗の会社であるという裏テーマから、高齢者をキャスティングされたようです」

 老舗でありながら思い切った判断に出た踏み切ったセイヒョー。演出のすべてはセカイ監督に一任し、彼のセンスで自由に制作してもらったという。セカイ監督が参考にしたのは、人気コミックで松本潤、井上真央でドラマ化もされた『花より男子』、また同じく人気コミックでアニメ化、山崎賢人主演で実写化もされた『斉木楠雄のΨ難』。つまり、11月動画の高慢な金持ち“佐渡”とヒロインは、道明寺司と牧野つくしのオマージュだったというわけだ。

 ネットでもよくネタとして挙げられる学園あるあるの定番パッケージ、「おもしれー女」「とぅんく」というネットミームを使用し、視聴者のツッコミ待ち状態に。とはいえ、出演したシニア俳優陣はそういった文化に馴染みのない世代であるため、撮影ではリテイクを重ねるシーンもあったという。

「特にセカイ監督がこだわったのは、“佐渡”がヒロインの頬を掴んだときの唇の形。イメージ通りの唇の尖り方を得るために、この数秒のシーンを9回リテイクしたそうです。また“とぅんく”と“オモシレーオンナ”というセリフの言い方はキーとなるため、そこにもかなりこだわったとおっしゃっていました」

 動画の効果はバツグンだった。公開と同時に、1日で昨年の11月1ヵ月分の注文数を記録。昨年比の3倍以上の売上を呼んだ。これは中国のWeiboでも「日本に変なCMを作っているアイス会社がある」と話題になった。ビッグネームの俳優起用なくして、海を超え海外にまで届いた本CMの反響に、同社はこれを一世一代のチャンスと捉え、全国への販路拡大、事業拡大に意気込んでいる。

■物価高騰でも“60円”キープの『もも太郎』、高級志向トレンドにカウンターヒットなるか

 創業から100年を超える同社は、新潟で「思い出と変わらない味」をコンセプトに商品を販売してきた。看板商品『もも太郎』は、70年以上の歴史を誇る。その時代時代で消費者の味の好みが変わるため、微妙なマイナーチェンジはほどこしてきたが、「生まれた頃からある味、新潟に住んでいなくても、新潟の祖父母の家へ遊びに行った時に食べた味、常に冷凍庫に入っているアイス、そうして3世代に渡って愛される商品を志しています」と語る。

 値段は、このご時世にもかかわらず、1本60円をキープしている。「かなり厳しい情勢ではありますが、子どものお小遣いで買えるものであり、その思い出のまま、同じ値段で食べてもらいたい」という想いからだ。“思い出”を付加価値に置いているからこそのロングセラーなのだろう。昨今は高級志向トレンドが進む中、レトロでシンプル、低価格の『もも太郎』は都会のアイスコーナーで新たなニーズを創出し、意外なヒットを生む可能性も秘めている。

 地元のソウルフードから日本全土へ――。思えば、満島ひかりが出演した長崎県南島原市のPR動画や、ニュートンを題材にした滋賀県広報課のPR動画など、ここ数年で全国的な話題を呼ぶローカルCMは増えている印象だ。

 都市集中現象、少子高齢化に加えて、物価高騰が止まない中、各業界の競争はますます激化していくに違いない。しかしこのインターネット社会において、チャレンジの選択肢は格段に拡大し、いまや大企業一強時代ではなくなった。地方の老舗企業であるセイヒョーが新たな感性で日本全国に楽しい話題を届けられたように、日本経済が佳境を迎える中、今後CMに“本気を出す”地方企業が増えてくるのは必然であり、急務なのかもしれない。

(取材・文/衣輪晋一)

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