2022年11月、IoTNEWSの会員向けサービスの1つである、「DX事業支援サービス」の会員向け勉強会が開催された。本稿では、その中からユニバーサルロボット日本支社代表 山根剛氏のセッションとUR+のデベロッパーである株式会社ハイオス、および販売代理店日本バイナリー株式会社のセッションを紹介する。
協働ロボットとは
協働ロボットとは、人と同じ空間で、一緒に作業を行ったり、人の代わりになって作業を行ったりするロボットである。
日本では協働ロボットという用語も定着しつつあるが、実際には協働ロボットも産業用ロボットの1種である。産業用ロボットの中でも、ロボットの力や動力を制限し人に当たっても安全に止まる機能を加え、ロボットと人が協調作業できるものが協働ロボットと呼ばれている。
※本稿では、産業用ロボットと協働ロボットを区別して記載する。
産業用ロボットとの比較
従来型の産業用ロボットは、柵で周りを囲んで使用する必要があるため、工場内の特定の場所に固定して使うことが一般的だ。一方で協働ロボットは、従来型産業用ロボットと比較すると軽量で柔軟に再配置ができ、ロボットのティーチングも容易である。1つのロボットが複数の仕事を行えることもメリットである。
実際の製造業の現場では、少量品種を大量生産している工場もまだまだ多く、全体で見ると従来型産業用ロボットの方が多く使用されているという。
これまでの産業用ロボットは、プログラミングに専門知識が必要だったり、広いスペースや大きな設備投資が必要であったりしたため、中小企業などにとっては導入へのハードルが高かったが、協働ロボットを使用することで、専門技術者がいなくても、スペースが狭くても、ロボットを比較的容易に導入することができるようになり、自動化の実現が可能になるとした。
協働ロボットの導入が進みつつある背景
協働ロボットの導入が進みつつある背景として、様々な社会情勢が影響しているという。
以前から言われているように、日本国内の人口と生産年齢人口は減少しており、人手不足は今後も続くことが予想される。更に、最近では雇用状態も変化してきており、働き方改革や賃金上昇、残業規制等の変化がある中で、日本では外国人労働者の確保が難しいという問題もある。また、米中貿易摩擦やロシアウクライナ間の戦争など地政学上のリスクによって、製品を輸入できない、生産できないという問題も起きており、生産現場を国内回帰させようという流れもある。
大手企業が生産現場を国内回帰させる動きが起きると、中小企業が作業員を募集しても人を集めることは難しくなってしまう。そこで、人の作業を代替できる協働ロボットを導入し、人手不足を自動化で解決するという方法が取られ始めている。技術革新により協働ロボットが生まれ、自動化の障壁が下がっていることから生まれた考えだ。
協働ロボット専業メーカーユニバーサルロボット
ユニバーサルロボット(以下、UR)は、2005年にデンマークで設立された会社だ。
URの創業者たちは、中小企業における工程自動化の研究を行っていた。実際に産業用ロボットを中小規模の食品工場に持ち込んでさまざまな検証を行ったところ、食品工場では多品種少量生産をすることが多く、段取り替えが度々起こることがわかった。
産業用ロボットは完全に囲われた柵の中に固定して使わなくてはならず、また取り扱う製品が変更になった場合にロボットの再ティーチングを行う必要があるが、狭い工場の中で安全柵を含めたスペースを確保するのは難しく、また、プログラム変更の都度専門技術者に外注するのはコストと時間の面でネックであった。
つまり、中小企業が産業用ロボットを使用して自動化をするには高い壁があったということだ。URの創業者たちはこの時、ロボットプログラミングの専門知識がなくても設定が可能で、柵がなくても安全に使用でき、軽量でスペースを取らないロボットがあればニーズがあるのではないかと考え、開発を開始したそうだ。
ユニバーサルロボット製協働ロボットの特長
URの協働ロボットは、6軸それぞれが±360°動く。これにより、協働ロボットが届かないポイントが非常に少なく、様々な用途で人作業を真似することができるという。
現在では、様々な企業が協働ロボットを開発しているが、多くは従来型産業用ロボットのメーカーであり、それらに安全機能を加えることで協働ロボットとして提供していると山根氏は述べた。一方でURは、初めから協働ロボットを作ろうと考え開発をしている。そのため、スタート時の製品思想が異なっており、産業用ロボットが元々得意としている溶接や塗装といった作業に限定されずに自動化を支援できるそうだ。
協働ロボットを選ぶ際には、可搬重量とリーチの長さが選定ポイントになるという。URでは、2022年夏にUR20という新製品をリリースした。このUR20は、可搬重量が20kgでリーチが1750mmである。これまでのURの製品の中で最大の可搬重量になるが、これは重い荷物を運ぶ作業を協働ロボットで代替したいという利用者のニーズに応えるものであるという。
販売戦略
URでは、世界各国にURの協働ロボットを広げるために、まず各国に支社を作るという。支社が現地で販売網を持った代理店と契約し、代理店が自らが持つ顧客や新規ユーザーに対して販促を行う。
技術サポートも、初期対応は代理店が行うが、もちろん各国のURの支社が代理店やSIerといったパートナーを支援する。また、ロボットの各軸がモジュール化されているため、どこかの部品が故障した場合でもそこを交換するだけで対応が可能で、サポートが簡単であることも特長だ。
そもそもロボット自体が使いやすいということは販売代理店にもメリットがある。これまでロボット事業に参入できなかった代理店も、URの協働ロボットであれば販売できるため、URは熱意を持った代理店網を拡充し、世界中のシェアを広げているという。
自動化の障壁を下げるUR+
URの協働ロボットはロボットアームであり、仕事を行わせるにはワークを把持するハンドなどのエンドエフェクタが必要だ。行わせる仕事の内容によってはロボットの眼となるビジョンシステムや、6軸ロボットに7軸目を加えるリフターやスライダーなどを使う場合もある。つまり、ロボット本体だけが使いやすくても不十分で、周辺機器を含むロボットシステムの構築が容易でなければ、自動化しやすいとはならないとした。
そこで、URは、UR+という取り組みを開始している。エンドエフェクタやビジョンシステムなどロボットの周辺機器を、URの協働ロボットとプラグインで使えるよう電気的、機械的なインターフェースがカスタマイズされた製品群だ。ユーザー目線で見ると、ロボットと周辺機器を1つのインターフェースでシームレスに利用できる様になっている。スマートフォンでアプリをダウンロードして使いやすく利用できるというような世界観を広げていこうとしているという。
これまではロボットのシステム構築には専門技術者が不可欠だったため、SIerに外注せざるを得ずブラックボックス的な部分があったが、UR+製品を利用することで、中小企業でも自前で自動化に取り組むことができるようになる。
UR+エコシステムには300社以上がデベロッパーとして参加しており、認定製品数は400品以上になる。URロボットのティーチペンダントから一気通貫でプログラミングできる周辺機器が豊富にそろっていることから、ロボットの使いやすさも向上し、ロボットの価値も陳腐化しないというメリットがあるという。
勉強会では、UR+のデベロッパーであるハイオス株式会社と、販売代理店の日本バイナリー株式会社も登壇し、自社製品とUR+の関係について紹介した。
株式会社ハイオスの電動ドライバー
株式会社ハイオスは、電動ドライバーやトルク計測器、ネジ供給機等を開発・製造、メンテナンスまでを一貫して手掛けている企業である。
UR+製品として登録されているのは、ロボット用電動ドライバーだ。URの協働ロボットに搭載されている力覚センサーがネジ締めとの相性が良いと考えたため、UR+への登録を考えたそうだ。ネジ締めの自動化では、ネジが締まっていくスピードとロボットの下降するスピードが追従していないと、うまくネジ締めができなくなってしまう。ロボットに力覚センサーが搭載されていることで、常に設定した力で押し続けることができ、感覚を必要とする作業を高精度に実現することが可能であり、人の手と同じような締め方ができるようになるという。
UR+製品としての認証は、最終的にメーカーであるURに委ねられるが、ロボットにアドオンするソフトウェアの開発はデベロッパーが自ら行うことになるという。ハイオスは電動ドライバーを開発・製造しているメーカーで、エンジニア的な知識をもっていなかったため、プログラムの開発は協力会社と開発チームを組み対応した。ただ、協力会社は電動ドライバーの動作についての知識を持っていなかったため、開発をすすめることにも苦戦したそうだ。また、UR製のロボットを所有していなかったため、動作を確認する場合はUR製のロボットを持っている別の協力会社にロボットを借りて対応する必要があったが、コロナ禍の期間でもあったため、検証に時間を要したそうだ。
しかし、ティーチングペンダントのオフラインシミュレーターをURが提供しているため、ロボットを所有していなくても、ソフトウェアの仕様確認や動作確認をシミュレーター上で実施することができたという。また、安全性や使いやすさといった項目でURの支援を受けながら開発を進めることができたそうだ。
今後は、UR+製品として掲載されることによる新規顧客の増加を期待しているとし、今後の新製品についてもUR+に対応した製品を開発していく予定だとした。
日本バイナリー株式会社の触力覚フィードバック装置
日本バイナリー株式会社は、2014年からURの販売代理店になった輸入販売商社である。同時にURの認定トレーニングセンターとしての役割を担っているという。
日本バイナリーは、触力覚フィードバック装置とURの協働ロボットを組み合わせたソリューションを開発している。
触力覚応答とは、触覚と力覚を組み合わせた用語である。触覚は指先や手のひらで感じる感覚であり、表面の触り心地を感じる触覚と、接触時の硬さや柔らかさを感じる圧覚を含めた感覚である。力覚は、腕全体や手首で感じるような、引っ張られたり押されたりすることを感じる感覚である。触力覚とは、これら2つを組み合わせた造語である。
触力覚応答技術の応用例として、ロボットの遠隔操作が増えてきているという。作業者の安全の確保や負担の軽減というシチュエーションで求められているためだ。完全自動化が困難な作業で、自動化と遠隔操作を切り替えながら作業を行うことで、効率化を図る狙いがある。操作者が触力覚応答を得ることでロボット操作が容易になるという。視覚のみで遠隔操作を行おうとすると、作業者の熟練が求められるそうだ。また、遠隔のロボットを操作する際に、作業者の腕を力覚で誘導するため、作業対象物や周囲環境を破壊する危険を回避し安全なロボット操作が可能になるという。
この遠隔で操作するロボットを協働ロボットにすることで、ロボット設置条件の大幅な柔軟化がメリットとしてある。人が作業するには危険だという遠隔操作が必要な環境は、ロボットの設置にとっても不都合があるケースが多い。協働ロボットを利用することで、安全性や省スペースを実現することが可能である。
日本バイナリーが取り扱っているSPIDAR触力覚フィードバック装置は、8本のワイヤーを用いた張力ベースのワイヤー駆動式を採用している。これは、東京工業大学精密工学研究所の佐藤誠教授が発明した純国産技術だ。日本バイナリーはこのSPIDARをUR+製品として申請し、2023年にはリリースしたい考えだという。URの協働ロボットは応答速度が早いため、遠隔操作に向いているそうだ。
協働ロボットで企業の競争力を高める
山根氏は、企業が競争力を高めるために自動化は避けては通れないとした上で、協働ロボットやUR+製品は企業がテクノロジーを段階的に採用して発展するためのツールであるとした。
これまで自動化の障壁が高く、中々自動化を進めてこなかったような中小企業でも自動化を進めて競争力を高めてほしいと述べた。
大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。
からの記事と詳細 ( 協働ロボットで中小企業の自動化を支援し競争力を高める ーUniversal Robots 講演レポート - IoT NEWS )
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