[モスクワ 22日 ロイター] - コカ・コーラを積んでロシアへの国境を越えるトラック。スペインのファッション大手「ザラ」の最新アイテムを抱えて外国から帰って来る旅行者。スウェーデン家具大手・イケアの在庫を売るロシア国内のオンラインストア――。
欧州や北米、日本の企業はウクライナ侵攻に反発してロシアから引き揚げたはずだが、撤退によるロシア消費者への影響は最低限にとどまっている。配送期間が延びたり、一部製品の値段が上がったり、という程度の問題しかない。
供給ルートこそ様変わりしたが、オンラインでも実店舗でも商品は相変わらず入手可能だ。買い手は、どこで売っているかさえ分かればいい。
重要な点は、こうした製品の大半が制裁対象ではなく、輸入が合法であることだ。ロシア政府も輸入を喜んで看過している。
こうした実態は、ロシアから引き揚げた西側企業がサプライチェーンを制御することの難しさを物語っている。
<ベラルーシでザラを購入>
「ザラ」を展開するスペインのインディテックスは、ウクライナ侵攻後にロシアにあった店舗502カ所を閉鎖し、アラブ首長国連邦(UAE)のダヘル・グループに売却した。
ロイターは6つの主要オンライン市場を調べ、消費者や売り手十数人に取材。その結果、小口輸入やオンライン販売によって、ザラブランドの製品が今もロシアで入手できることが分かった。
アルビナさん(32)は昨夏、からっぽのスーツケースを持ってベラルーシの首都・ミンスクに行き、自分用と友達用に442ドル相当のザラやその姉妹ブランド品を詰め込んで24時間後に帰国した。
大半の西側ブランドはロシアの盟友ベラルーシからも撤退したが、インディテックスは残っている。ロイターは同社にこの点を質問したが、回答はなかった。
アルビナさんはロイターに、パリやドバイでも洋服を買い、オンライン販売業者のネットワークも使ったと語った。
「欧州やイスタンブール、ドバイに移住した知り合いの女の子たちがいる」とアルビナさん。インスタグラムなどを通じ「彼女たちが、例えば(トルコの)イスタンブールで注文をまとめ、15%から30%(の手数料)を取り、配送料を支払えばロシアに配送してくれる」という。
昨年はロシア・ルーブルが上昇する一方、トルコ・リラは下落したため、ロシア人消費者には願ったり叶ったりだった。
外国の電子商取引サイトからの配送を請け負うCDEKフォワードのディナラ・イスマイロワ代表は、ロイターの取材に対し、同社が取り扱うトルコからの配送は7倍に膨らんだが、その一因は為替レートにもあったと説明。「ブランドが撤退を発表すると、すぐにパニックのようなムードになり、注文が急増した」と語った。
CDEKが扱う小口の配送は「ニューヨークにあるザラの店舗に自分で行って買い物をし、モスクワの友達に送るのと似たようなものだ」という。
<一物百価のコカ・コーラ>
サプライチェーンを断たれたロシア政府は、いわゆる並行輸入を合法化し、小売業者が商標所有者の許可なしに海外から商品を持ち込めるようにした。
電子商取引サイトは幅広い輸入品を扱っているが、海外から持ち込んだ商品だと宣伝することも多い。その筆頭がコカ・コーラだ。消費者が本物だと分かるよう、しばしば輸入品であることを前面に出している。
コカ・コーラ自体は昨年、ロシアでの生産と販売を中止した。輸入品の缶やボトルを見ると、欧州やカザフスタン、ウズベキスタン、中国から届いたものであることが分かる。
この結果、同じコカ・コーラでも違う値段が付くという皮肉な現象が起こっている。モスクワのスーパーでは、デンマーク、ポーランド、英国から輸入されたコカ・コーラがそれぞれ違う値段で売られていた。
<見て見ぬふり>
デジタル審査プラットフォーム、パブリカンのラム・ベン・ツィオン最高経営責任者(CEO)は、新たな輸入経路が開拓されるにつれて、物流コストなども下がっていくと予想。手続きの非効率性は残るものの、新たな貿易関係は今後も維持されるだろうと言う。
「コカ・コーラは、大半の並行輸入品の出所であるロシア近隣諸国での『需要急増』にすぐに気付くはずだ」と指摘。「それに対して何か手を打つのは同社のためにならない」とベン・ツィオン氏は述べた。
コカ・コーラはコメントを控えた。
制裁を科していないロシアの「友好」国がロシア向け輸出を急増させていることが、これら各国の貿易統計で分かる。ロシア自体はそうした数字の公表を中止している。
中国とロシアの貿易額は昨年1兆2800億元(1860億ドル)と過去最高を記録。トルコのロシア向け輸出は61.8%増(93億4000万ドル)、カザフスタンのロシア向け輸出は25.1%増(87億8000万ドル)だった。
ただ、当局が監視を怠っているため、低品質製品の流入が今後、増えるかもしれないとベン・ツィオン氏は言う。
<模倣品>
一方、コカ・コーラと競合するロシア企業は生産能力を拡大し、新しい「コーラ」製品を発売した。
また、イケアはロシアから撤退する際、同国のIT大手ヤンデックスの電子商取引部門、ヤンデックス・マーケットに在庫を売却した。
ヤンデックス・マーケットは、これまでイケアの店舗を通じて製品を販売していたサプライヤーが、顧客に直接売れるようにしたと説明している。
だが、こうしたサプライヤーの間では、異なったブランド名でイケアのレプリカ商品を売る動きもある。ある業者は既に、イケアの寝具セットの模倣品を「ARUA」名で宣伝している。
イケアは、類似品について調査していると説明した。
もっとも、消費者は西側ブランドに執着があるため、国内生産品の拡大は阻まれるかもしれない。
ベン・ツィオン氏は「ロシア人が慣れ親しんだブランド力のある製品が、今後も長い間市場で好まれ続けるだろう。『メード・イン・ロシア』に移行しようという機運はあるが、実際にはロシア版コーラに消費者を夢中にさせるのは非常に難しそうだ」と語った。
(Alexander Marrow記者)
からの記事と詳細 ( アングル:あふれる西側商品、ロシア「並行輸入」のからくり - ロイター (Reuters Japan) )
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