企業が従業員に提供する福利厚生が多様化している。かつて社宅や保養所、社員食堂などに代表された福利厚生は大手企業や官公庁を中心に自前で提供されていた。現在では、企業側のコスト削減や従業員側のニーズの多様化に対応し、福利厚生代行サービスが台頭してきた。業界関係者は「人手不足が深刻化する中、人材確保や人材のつなぎ留めを狙って、中小企業を含めてサービス導入の動きはさらに広がっていく」とみている。(時事通信経済部編集委員 田村佳久)
就活生も重視
代行サービスは、リロクラブ(旧日本リロケーション、東京都新宿区)が1993年に日本で初めて事業化した。バブル経済の崩壊により景気が低迷する中、大企業が社宅や保養所の売却を進め、福利厚生費の削減を進めたことで、保養所の代わりに外部の宿泊施設を割安で利用できるサービスへの需要が高まった。
代行サービスの登場により、宿泊施設のほか、テーマパークやフィットネスクラブ、映画チケットの優待など福利厚生のメニューが多様化。育児支援や家事代行、従業員のスキルアップを目指したマーケティングやプログラミングの講座なども提供されている。
就職情報サービスのディスコ(東京都文京区)が今年2月、2024年3月に卒業予定の大学生ら1170人を対象に行った調査では、「就職先候補として判断するために知りたい情報」を複数回答してもらったところ、「仕事内容・職種」(67.6%)に次いで「福利厚生」(63.5%)が2位となった。
オンライン化が加速
パソナグループの業界大手ベネフィット・ワン(東京都新宿区)は、娯楽をはじめとした優待サービスとセットで動画配信サービス「ネットフリックス」が視聴ができるプランを今年4月から提供する。担当者は「デジタルコンテンツの場合、サービス提供の地域差がなくなり、福利厚生を平等に享受できる」と話す。
電子ギフト事業を展開するギフティ(東京都品川区)は、福利厚生向けの需要を狙い、昨年10月に法人向けの新サービス「コーポレートギフト」をスタート。企業が従業員に対し、飲食店やコンビニの支払いに充てられる電子ギフトのほか、レジャーや食事などの体験型ギフトなどを贈ることができる。
ビジネスSNSを手掛けるウォンテッドリー(東京都港区)は福利厚生サービス「Perk(パーク)」を提供。スマホアプリで注文できる「出前館」といった飲食宅配代行サービスの割引などが使え、担当者は「日常生活で利用しやすいメニューをそろえており、他社の福利厚生サービスより利用率が高い」と胸を張る。
一方、競合他社がオンラインで完結するサービスを重視する中、リロクラブは紙媒体での情報提供にも力を入れている。現在は全国を13エリアに分け、福利厚生サービスのメニューを紹介する会報誌を年6回発行しており、今後も拡充させる方針だ。担当者は「宿泊施設の割引率など本来の福利厚生サービスを充実させ、地方でも使いやすいサービスを追求したい」と意気込む。
会費無料化も―白石徳生ベネフィット・ワン社長
ベネフィット・ワンの白石社長に今後の事業戦略などを聞いた。
―1996年にパソナグループの社内ベンチャー第1号として創業した。
当初は「ビジネスコープ」という社名で、会社の生活協同組合(生協)のような仕組みをインターネットで提供しようと思った。将来的には就業人口すべてを会員にしたい。会員のスケールメリットを生かして、いろいろなものを最安値で提供するというのは生協と発想は同じだ。
―今後の福利厚生サービスへのニーズは。
ニーズは一気に高まる。企業側から見た場合、福利厚生代行サービスの普及率は25%近い。かつてのパソコンや電子メールなど、普及率が25~30%超えると爆発的に普及する。中小企業も含め導入の動きが広がり、70~80%まで普及すると思う。
かつては人が余っていたので、中小企業などは社員を辞めさせないために福利厚生を提供する必要はなかった。今後は人手不足なのでやらざるを得ない。
―今後の事業戦略は。
普及率が7~8割になった場合、会費を取っているとそこで成長が止まる。将来的には(従業員1人当たり1200円程度の)会費を無料にし、普及率100%を目指したい。無料にする以上は新たな収益源が必要なので、会員企業の給与天引きを利用した決済事業を軌道に乗せる。
―決済事業会社を目指すのか。
そうだ。長い目で見た場合、競合先になるのはクレジットカード会社だ。われわれがやろうとしているのは、電気、ガス、水道、家賃、新聞代、携帯料金、生命保険などの決済で、クレジットカード会社が狙っている分野でもある。
―政府の求めに応じて企業が賃上げを進めると、福利厚生に充てる原資が削られないか。
賃上げするから福利厚生をやらないということではなくて、賃上げもするけど、福利厚生もする。採用や離職防止のため、企業はあらゆる努力をすると思う。
(2023年3月29掲載)
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