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Wednesday, June 28, 2023

人的資本投資によるイノベーション創出こそがサステナブルな ... - PwC

「人的資本」という概念が日本に浸透した背景

――担当領域において、「人的資本」が身近になってきたと感じた時期や、出来事についてお聞かせください。

大屋直洋(以下、大屋):日本で人的資本が広く意識し始められたのはここ数年のことだと思います。私が担当するM&Aの領域では、「伊藤レポート」(経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書)が公表された2014年ごろからだと感じています。この時点では「人的資本」というキーワードは使われていないものの、企業価値向上の一要素に人材の観点が盛り込まれたのです。

翌15年にはコーポレートガバナンス・コードが策定され、「企業は株主を重視すべき」との姿勢が明確になり、経営者の意識が企業価値を上げることに向き始めました。

西川真由美(以下、西川):税務の領域でも、コーポレートガバナンス・コードによって役員報酬の考え方が整理されて以降、株式報酬に対する税の取り扱いについてご相談を受けることが増えてきました。人的資本は、その時期から注目され始めましたね。

篠崎亮(以下、篠崎):その当時の日本経済は、リーマンショックを経て株価は回復基調にあったものの、企業価値を示すPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)の低迷が課題として浮上していました。

私が専門とする知的財産の分野では、企業価値を構成する要素として、有形資産のみならず無形資産も重視すべきではないかとの議論が起こり始めていました。その無形資産には、日本企業がかねてから着目してきた「技術」に加えて、それを生み出す人材という資産こそが重要であるという話に及んでいたのです。

さらには非連続なイノベーションの必要性も謳われてきて、アイデアを出し、新規事業を起こせる人材の価値も高まりつつありました。

大屋:企業価値の向上は、既存のオペレーションをスムーズに回すだけでは実現できません。そこで、既存事業の強化にしても、新規事業の立ち上げにしても、多様な人材に活躍してもらう必要があることに経営者が着目し始めましたね。

中村良佑(以下、中村):私は会計士として経験を積む中で、会計上、従業員は人件費というコストであり、貸借対照表に資産として表れない点に、会計の限界があると感じてきました。皆さんが挙げている2014年頃を思い起こすと、海外はESGを重視した経営に舵を切り、その文脈で人材への着目が高まった時期だったように思います。

一方、その時期の日本は、東日本大震災からの復興の最中で、ESGの優先順位は高まりませんでした。ようやくここ数年で注目されたのは、コロナ禍によって、想定を上回る出来事は次々に起こるものだということを多くの人が実感したからではないでしょうか。

少なくない数の企業が経営危機に直面し、その結果としてサステナビリティの重要性を実感したのだと思います。短期で物事を考えても想定以上の変異が起こり得る。だったら長期的な視点で大きな絵を描こう。そのような機運が高まったと捉えています。

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