中小企業の間で合併・買収(M&A)が広がっている。後継者がいない経営者によるやむにやまれぬ案件だけでなく、将来を見据えた積極策もみられる。自分の会社を売る抵抗感は薄れ、「事業を残すためのM&A」は普通のことになりつつある。(渥美龍太)
◆買収提案を即決
コトウユウキさん(44)は2023年4月、自らが創業したウェブ制作会社(目黒区)の買収を提案された。相手方は、コトウさんが経営コンサルの仕事を引き受けていた不動産管理会社だった。「『ありがとうございます』と返答するまで、1秒かからなかった」と当時を振り返る。
創業から18年がたって売り上げが低迷する中、2000万円あった負債を返済してくれるとの条件だった。「従業員の幸せとかを考えると、オーナー経営者で居続けることへのこだわりはなかった」と言い切る。今は相手方のグループに入った会社を引き続き経営しつつ、グループ全体の経営にも参加している。
◆成約件数は右肩上がり
中小企業基盤整備機構によると、中小企業が事業を譲る際の支援機関「事業承継・引継ぎ支援センター」でのM&A成約件数は、22年度に前年度比で11%伸び、1681件と過去最高となり、右肩上がりが続いている。譲渡企業の約3分の2は売り上げ1億円以下と規模が小さい。
背景のひとつは、経営者の後継者不足だ。帝国データバンクによると、後継者がいないことによる倒産は23年に前年比で2割近く増えて564件と過去最多を更新した。対策として24年度の税制改正では、中小のM&Aでの税負担を軽くする措置が盛り込まれた。買収した株式取得額の最大100%を税務上の費用に算入できるようにする。
◆「雇用や地域のことも考えて」
人を大切にする経営学会の坂本光司会長は「経営者の老後不安などによる安易なM&Aなら慎むべきだ。やるなら雇用や地域社会のことを考えてほしい」とくぎを刺すが、「都内の中小でもM&Aはどんどん増えている」(社会保険労務士)と、流れは止まらない。
中小企業家同友会全国協議会(千代田区)の広浜泰久会長はM&Aについて「『会社を売るなんて』という抵抗感がかつてはあったが、空気は変わった」との実感があるという。「お客さんや従業員に迷惑をかけなければ悪いことではないとの考え方が強まり、今や一つの選択肢になった」との見方を示している。
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