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Sunday, March 22, 2020

再注目 燃料電池車が築くスタートアップ経済圏 - 日本経済新聞

米ニコラ・モーターの燃料電池トラック(トレーラーのヘッド部分)

米ニコラ・モーターの燃料電池トラック(トレーラーのヘッド部分)

CBINSIGHTS

 一時は「究極のエコカー」とも呼ばれた燃料電池車(FCV)。燃料である水素を供給する水素ステーション網が必要となるなど、普及へのハードルはなお高い。燃料である水素を作るのに化石燃料を使うなどエコカーとしての真の実力に疑問符が付くことも多い。それでもこれらの課題を解決すれば、電気自動車(EV)に代わるエコカーとなる可能性も秘める。その時を先取りしようと、FCV関連のスタートアップが続々と名乗りを上げ、自動車大手もその実力に注目し始めた。

気候変動に関して、輸送は重要な検討事項だ。米国では温暖化ガス排出量の約30%、世界では14%を輸送部門が占めているからだ。だが、輸送部門の脱炭素化に必要だと考えられているEVは、まだ世界レベルでは主流になっていない。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

その主な理由は消費者が完全EVの採用に慎重な姿勢を崩していないからだ。1回の充電で走行できる距離や、充電設備の不足、大半のEVが充電に数時間かかり、寿命に限りがあるリチウムイオン電池を使っていることなどがネックとなっている。

一方、有望な代替策の一つがFCVだ。FCVはタンクに貯蔵された水素と大気中の酸素を化学反応させて発電した電気を使う。水蒸気しか排出しないため、FCVは温暖化ガスを出さない「ゼロエミッション車」だ。

燃料電池の技術はまだ軌道に乗っていないが、CBインサイツのデータで示されるように、この技術への関心はここ数カ月で再び高まっている兆しがある。

水素に関する話題は増えている ニュースで「燃料電池」と「水素」に言及した回数

水素に関する話題は増えている
ニュースで「燃料電池」と「水素」に言及した回数

■燃料電池の機運高まる

韓国の現代自動車、エンジンの米カミンズ、自動車部品の仏フォルシアなど自動車業界の大手各社は低炭素の未来を見据えた事業を構築し、燃料電池技術に多額の資金を投じている。

各国政府も水素を優先的に推進している。特にアジアの主要国(中国、日本、韓国)は既にFCVの開発目標を定めており、現代自、ホンダトヨタ自動車など大手自動車メーカーによるFCVの開発が大きく報じられている。最近の報道によると、BMWやダイムラー、フォルクスワーゲンが本社を置くドイツは水素の供給を確保するために欧州やアフリカで契約を結ぼうとしているようだ。

この分野のスタートアップ企業も注目を集めている。大型FCVのスタートアップ、米ニコラ・モーター・カンパニー(Nikola Motor Company)は3月、既に上場している特別買収目的会社(SPAC)のベクトIQ・アクイジション・グループと合併し、上場する方針を明らかにした。実現すれば、ニコラは大型燃料電池トラックメーカーの上場第1号になる。

■なぜ燃料電池なのか?

燃料電池は圧縮した水素を大気中の酸素と化学反応させて発電し、水蒸気を排出する。FCVはバッテリーやスーパーキャパシター(蓄電器)の代わり、または補完として燃料電池を使い、モーターを動かす。

水素燃料電池の技術 出所:カミンズ

水素燃料電池の技術
出所:カミンズ

ただし、FCV自体は排ガスを出さないが、燃料電池で使う水素の生成に化石燃料を使用すれば、温暖化ガスを排出することになる可能性がある。一方、気候変動に対する懸念の高まりから、太陽光発電や風力発電などクリーンエネルギーを使って生成した水素「グリーン水素」が注目されつつある。

さらに、燃料電池には従来のEVバッテリーよりも多くのメリットがある。最も顕著なのは、FCVは大半のバッテリー式電気自動車(BEV)よりも1回の充電で走行できる距離(航続距離)が長く、充電時間が大幅に短い点だ。現行のFCVモデルはいずれも航続距離が300マイル(約480キロメートル)を超えており、充電は数分しかかからない。これは従来のガソリン車やディーゼル車とほぼ同じだ。これに対し、BEVの平均航続距離は200マイル(約320キロメートル)未満で、30分の充電で約20時間走行する。

とはいえ、FCVに欠点がないわけではない。

水素の生成や輸送はコストが高く、水素燃料は消費者にとって割高だ。さらに、水素の燃料供給インフラは依然として極めて限定的で、EVの充電インフラよりも少ない。

このため、各社は生成・輸送コストを下げる新たな策を編み出そうとしている。各国政府はFCVの台頭を支えるため、燃料ステーションの設置に目を向けている。

■なぜ今なのか?

水素燃料電池への関心が再び高まっている理由はいろいろある。

最大の理由は、気候変動と二酸化炭素の排出量の増加に対する懸念の高まりだ。BEVの普及が遅れているため、FCVはガソリン車の新たな代替策になり、気候変動のリスク緩和に貢献する可能性がある。

水素燃料の生成・輸送コストが下がっているのも一因だ。大手各社もバッテリー技術よりも燃料電池技術の方が適している用途を見出しつつある。

■クリーンな水素の生成が可能に

水素は多くの業界の脱炭素化に大きな役割を果たす可能性がある。もっとも、燃料電池の利用で環境への恩恵を受けるには、石油や石炭ではなく、クリーンエネルギーを使って水素を生成しなくてはならない。

太陽光や洋上風力発電など再生可能エネルギーを使って生成した水素は「グリーン水素」と呼ばれる。これはゼロエミッションであるため、この水素を使った燃料も温暖化ガスを排出しない。

再生可能な水素のサイクル 出所:ハイドロビル

再生可能な水素のサイクル
出所:ハイドロビル

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、再生エネはコスト面で化石燃料に対抗できるようになりつつある。再生エネの発電コスト低下により、グリーン水素の生成コストもさらに下がるだろう。

■商用車が有望

水素燃料ステーションは非常に少ないため、FCVの乗用車はまだ普及していない。価格もBEVよりも高いことが多く、ガソリン車を大幅に上回っている。

燃料源としての水素の価格も依然としてガソリンよりも割高だが、今後数年で状況は変わりそうだ。

商用車には大型バッテリーが必要なため、トラックは重量が重く、燃費もそれほど良くない。このため、商用車に燃料電池を使うのは乗用車よりも妥当といえる。トラックは大体同じような道を通るため、適切なインフラの整備も乗用車ほど難題にはならないだろう。

燃料電池技術の開発に取り組んでいる自動車業界の企業の大半は商用車向けに特化している。部品大手の独ボッシュはニコラと共同で水素燃料電池パワートレインの開発を進めている。現代自は自社のFCVトラックにフォルシアの水素貯蔵システムを搭載している。そして、トヨタと米大型トラックメーカーのケンワースは短距離向けの燃料電池大型トラックの開発に取り組んでいる。

ニコラがこのほどベクトIQとの合併を発表したのは、次世代のスマート輸送に特化した会社を創設するのが狙いだ。ニコラは6カ月前、シリーズDの資金調達で韓国の大手財閥ハンファグループやボッシュ、オランダの農機メーカーCNHインダストリアルから3億3000万ドルを調達したばかりだった。

■低コストの生成・輸送策が登場

各社は水の電解コストを削減する策の開発にも取り組んでいる。水素燃料をつくるために水を分解するプロセスを電気分解という。

現代自が出資するイスラエルのH2プロ(H2Pro)は水の分解技術「E-TAC(電気化学―熱活性化化学)」の開発を進めている。E-TACは電気分解と同様に水素と酸素を分解するが、分子を一気にではなく段階的に分解する。この手法では従来の電解よりもキロワット時あたりの水素の生成効率が高く、水素と酸素が別々に生成されるため爆発のリスクも抑えられる。

スタートアップ各社も水素を安価で簡単に輸送する手段の開発に取り組んでいる。

水素は気化しやすく引火性が高いため、高圧または低温で貯蔵しなくてはならない。三菱商事が出資する独ハイドロジーニアスLOHCテクノロジーズ(Hydrogenious LOHC Technologies)は、水素を安価で簡単に輸送する技術の開発に取り組んでいる。同社が手がけているのは、水素を石油と共に貯蔵し、輸送することで、新たな貯蔵施設を築くのではなく既存のインフラを活用できる「液体有機水素キャリア(LOHC)」だ。これにより輸送できる水素の量は3倍になる。

■今後の見通し

多くの専門家はどれか一つのテクノロジーへの支持を表明するのはまだ早いと考えている。消費者は選択肢を求めており、用途によって適しているテクノロジーも変わるからだ。

しかも、輸送分野では車のシェアリングやMaaSなど既存の価値観を打ち破る別のトレンドの方が大きな注目を集める傾向にある。燃料電池は今後も輸送分野の大手各社による研究開発や投資の中心になる可能性が高いが、FCVが世界規模で完全に商用化されるのは数年後だろう。

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