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Wednesday, August 12, 2020

『夜、灯す』レビュー、ホラーを期待すると肩透かしだが、繊細な少女たちの成長物語 - IGN JAPAN

※レビューには本作のストーリーに触れる部分があるため、ネタバレを避ける人は注意してください。


ホラーというジャンルは難しい。それぞれの人間が怖いと思うものは異なるし、ある人にとっては、そのシーンが恐怖に感じるものであっても、別の人にとってはなんでもないものだったりする。もちろん逆の場合もある。

また、ホラーは複合的な内容であることが多く、お化け屋敷のアトラクションのように恐怖させたり驚かせたりするといったものは少ない。映画であれば2時間、ゲームであればそれ以上の尺があるため、ビックリシーンだけでは間が持たない。内容にも緩急が必要で、大抵の場合は人間ドラマなどの別の要素が挟まることになる。そのため、ホラーであるか否かは受け手が決める部分が大きい。

かつて、『東京ダーク』のレビューでライターの福山幸司は「古典的な定義を述べるならば、人間の狂気や犯罪の枠に収まるものがサスペンスであり、その先に霊的・超自然的存在を感じさせることができたらホラーといえる」と綴っている。

本作『夜、灯す』には怨霊が登場して、要所でキャラクターたちの心の弱い部分に付け入ろうとする。そういう意味では本作をホラーと言っても間違いではない。しかし、あくまでメインで描かれるのは少女たちの青春であり、筆者は本作をホラーだと思うことができなかった。

自分は気持ちを切り替えて爽やかな青春モノとして本作を楽しめたが、最初に公式サイトなどを見てホラーだと知ったときは『流行り神』シリーズや『特殊報道部』を作った日本一ソフトウェアの新作ホラーアドベンチャーゲームが楽しめると思っていたので、その点は肩透かしを食らってしまったのは事実だ。きっと、その点で不満に思うユーザーも多いだろう。そのため、本作はギャップで評価を下げかねないもったいない作品になっている。

序盤はホラーだが、その後は少女たちの青春劇に

本作は過去に悲しい出来事が起きた由緒ある女子校を舞台に、その学校に通う女の子たちが謎の怪異事件に巻き込まれていくアドベンチャーゲームだ。

イラストを手掛けるのは新進気鋭のカオミン氏で、透明感のあるイラストは本作の雰囲気にとても合っている。ただ、それだけに目パチや口パクのような動きがないのが残念。表情パターンはあるものの、立ち絵のサイズが変わったり、カットインが入ったりすることもないので、立ち絵を置いているだけといった印象を受けてしまう。

物語の舞台となるのは琴を演奏する部活である筝曲部。主人公の十六夜鈴(いざよいすず)たちは“楽しく”をモットーに活動していたが、筝曲界トップの弟子数を誇る流派の娘である皇有華(すめらぎゆうか)が転校してくるところから物語は動き出す。

鈴たちの演奏を聞くなり、「音楽への侮辱だ」と伝える有華。孤立する彼女に頭を悩ます鈴や部長の武沢麻理乃(たけざわまりの)だが、あるとき部長の下駄箱に“旧校舎で話がしたい”という有華からのメモが入っていた。

部長を見守ることにした鈴だったものの、気になって旧校舎に向かったところ、2階から転落して血まみれになった部長を見つけてしまう……という導入だ。

“過去に事件の起きた旧校舎の謎”や“部長を突き落としたのは有華なのか?”といった謎掛けはあるものの、だいたい最初に思いつく想像通りの内容であるため、ここに関しては引きが弱く感じた。本作がホラーでないと感じてしまう部分も、早々に事件を起こしている霊の正体がハッキリとわかってしまっている点にあると思う。もっと得体のしれないものとして怪異を描いたほうがよかったのではないだろうか。

その後は部長のいない状態で鈴たちが部活を続けていくことになるが、ここからは箏(こと)という楽器の演奏を通じて、それぞれのキャラクターが持っている心の問題が浮き彫りになり、ひとつずつ解決、成長していく姿が描かれていることになる。本作はホラーとしては、やや失敗しているが、逆にこの部分は描写も丁寧で構成もしっかりしており安心して読み進めることができた。

たとえば、最初は有華に「やる気のない音」を奏でていると言われた青柳真弥(あおやぎ まや)にスポットが当たるが、彼女は幼いころに鈴にいじめっ子から助けてもらったことがあり、彼女といっしょにいたいという理由で箏をはじめたことが明かされる。

同じように「自分を偽る音」「ただ走るだけの音」と言われた舞原累(まいはら るい)や田鎖 麗子(たくさり れいこ)も、その人物の背景を交えて、しっかりキャラクターの成長が描かれる。登場人物の数は多くないが、その分、ひとりひとり心の変化や成長が丁寧に描写されており、物語を読むことで彼女たちのことが好きになることができる。とくに主人公の鈴はほかのキャラクターに比べて壮大なエピソードが用意されており、読み終えたときに温かい気持ちにさせてくれる。

百合というジャンルの持つ繊細さをうまく表す反面、ボリューム不足や演出の弱さが目立つ

個々の問題は部活の仲間たちの存在によって解決されていくが、そこは本作が精神的な関わりを重視する百合であるところもプラスになっている。箏という楽器を通じて自分と向き合うことになるストーリーは繊細なもので、百合というジャンルの持つ持つ繊細さとマッチしていると感じた。

とくに終盤における、お互いの絆の深さやひとりを想う気持ちなどは、百合というジャンルでしか描けない特別なものになっているだろう。そのため、百合の尊さや儚さは本作で十分堪能できる。

また、百合といっても本作の文章は基本的には軽快でスラスラと読め、難しい単語もあまり出てこない。プレイ時間は10時間ぐらいで個人的にはコンパクトにうまくまとまっていると感じたが、定価が6980円であるため、ボリューム不足だと思う人もいるかもしれない。

物語の分岐は一応あるが、間違った選択肢をするとデッドエンドになるだけで専用のCGを見ることはできるが物語の分岐はない。そのため、通販限定版には前日談と後日談の書き下ろし小説が付いてくるが、ボリュームなどを考えるとこちらは本編に組み込んでよかったのではないかとも思う。

物語を読み進めていくうえでのシステム部分に関してはとくに不満はないものの、前述のように立ち絵に目パチや口パクなどの動きがない点は少し気になった。ここもフルプライス作品ならば、もう少しこだわってほしかった。

逆にこだわりを感じられたのはサウンドで、和楽器を使用した和風のものが多く、聴いていて心地の良いオリジナリティあふれるものになっている。また、こまかい部分だが、システム音が弦を弾いた「ポロン♪」という音になっているのもおもしろいポイントだ。

決して内容自体がつまらないわけではなく、コンパクトなボリュームや砕けた文体など、青春モノや百合系のライトノベルやコミックが好きな人に手軽に遊んでみてもらいたい作品だが、やや値段と釣り合っていないため、簡単におすすめできない点は残念だ。

丁寧に描かれる少女たちの成長ストーリーは青春モノとしてよく出来ている。キャラクターデザインのカオミン氏の描くイラストも惹き込まれる魅力がある。ただ、公称ジャンルであるホラーの要素が薄かったり、価格に見合うだけのボリュームではなかったりと、人によっては肩透かしに感じてしまう部分も多い。

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August 12, 2020 at 01:51PM
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