中小企業とDX
2023年 5月 29日
不動産売買仲介を手掛ける「イエステーション」のフランチャイズ(FC)として佐賀市内と福岡県久留米市内の2店舗を構える株式会社ソロン。不動産業らしからぬ社名は、古代ギリシャの七賢人の一人で、アテナイ(アテネの古代名)の民主主義の基礎を築いたといわれる高名な政治家・ソロンから名付けた。その名にふさわしく、デジタル技術を駆使した改革を進めた同社は今年に入り、DX推進企業の証ともいえるDXマーク認証を受けたのに続き、経済産業省の「DXセレクション2023」の優良事例に選定された。「現状維持は後退である」との考えのもと、古代の改革者の名を持つ同社は進化を続けていく。
創業時の目標・県内ナンバー1達成に向けFC加盟
同社は、住宅販売会社勤務を経て1996年に独立した平川浩美代表取締役が佐賀市内で創業。当初は個人経営だったが、2009年に株式会社化した。創業時の目標は「10年後に契約件数で佐賀県ナンバー1になる」(平川氏)こと。しかし、10年後の2006年になっても目標は達成できなかった。
「ナンバー1になるために、どんな戦略を立てていけばいいのかわからなかった」と悩んだ平川氏は、全国各地で不動産売買仲介のFC展開を行い、地域ごとの戦略づくりに定評があるイエステーション本部(東京都新宿区)に加盟しようと考えた。ところが、話はすんなりといかなかった。当時50代だった平川氏に対し、イエステーション側は「50代以上の経営者の場合、それまでの考え方や経営方針を変えることに抵抗するケースが多い」と難色を示したのだ。そこで長男の致遠(むねとう)氏が後継者としてソロンに入社することを条件に、2011年に加盟が認められた。
「暴君」自らが考え方を180度転回、「すべて社長の責任」
FC加盟を機に同社は大きく変貌した。なかでも劇的に変わったのは平川氏自身だった。昔の自分を「暴君」と評する平川氏は当時の振る舞いや社内環境をこう振り返る。
「自分がルールブック。なにがあろうと常に自分が正しく、なにか問題が起きたら、それは社員のせい」という有り様。指示も思いつきや気分でころころ変わり、「朝令暮改どころか、“朝令朝改”だった」という。当然、社員の離職率は高かったが、平川氏はほとんど気に掛けることなく、「求人に応募してきた人を即座に採用。給料を払っているのだからと自分の言うとおりに働かせ、それで辞めていったら、また募集すればいいだけのこと」。そんな繰り返しだったという。
それが加盟後は考え方を180度転回。イエステーションでの研修や経営コンサルティング会社のアドバイスを受けるなどし、「社内で起こることはすべて社長の責任」ということに気づかされたという。トップ自らの意識改革により社内の雰囲気は別会社のごとく一変。社員たちは「かつては見たことがなかった社長の笑顔をよく目にするようになった」と驚いたという。
こうした大変革で、社員の定着率が高まり、それに伴い、業績も向上。「同業他社の数字はしばらく時間が経ってからでないと正確に把握できないが、2、3年前に県内ナンバー1を達成したと考えている」(平川氏)という。
さらなる高みを目指して業務の効率化に着手
創業時の目標を遅ればせながら達成した平川氏はさらなる高みを目指す。「契約件数を今の倍以上に引き上げたい。店舗数も現在の2店舗から大きく増やしたい」。こうした目標を達成するため、次なる段階としてDXによる業務の効率化に着手することとなった。
同社では、10年ほど前からITツールを積極的に導入していた。しかし、営業管理や顧客管理など目的ごとに異なるソフトやアプリを使用していたため、同じデータをソフト・アプリごとに入力。同じ数字を3、4回入力するため、一部で誤入力となることがときたま発生していた。どの入力時にミスしたかを見つけ出すのに時間がかかるほか、誰が誤入力したかが分かるため、職場内の人間関係の悪化を招くことも。「面と向かって文句は言わないまでも、『あの人のせいで余計な手間暇がかかったよ』という険悪なムードが漂っていた」(平川氏)という。
そこで同社は他のFC加盟店の事例を参考にすることとし、サイボウズが提供する業務アプリ構築クラウドサービス「kintone(キントーン)」を活用していた北海道や栃木県などの加盟店を見学。その後、kintoneの導入を決めると、DX専任の社員を指名し、コンサルティング会社の支援を受けながら、同社の業務に合わせてアプリのカスタマイズを進めた。
県内第1号のDXマーク認証に続きDXセレクションに選定
その際に重視したポイントは「経営トップが全体像をしっかりと描くこと」(平川氏)。かつてのようにソフト・アプリごとに入力作業を進めるといった無駄な作業をなくし、ひとつのアプリだけで作業を完結させる。そのためには最初に最高責任者である経営者がシステムの全体像を構築しておかねばならない。その一方で、使い勝手をよくするためには現場を知る人の声を反映させる必要もある。その役割は不動産売買部本部長をつとめる致遠氏が担った。
これにより同社のシステムは完成。今では、取り扱い案件の進捗状況や顧客・不動産物件の情報などをパソコンやスマホなどを使い、リアルタイムで一覧できるようになっている。これらの情報を見やすくするため、社員は縦長と横長のディスプレイを使用、パソコンと合わせて3つの画面を自席で閲覧できる。「不動産会社というよりは、まるでIT企業のようなオフィスだとよくいわれる」(平川氏)という。
同社の取り組みは各種のお墨付きを得ることになる。佐賀県のアクセラレータ事業として助成金によってコンサルティング会社の伴走支援を受け、今年2月に中小企業個人情報セキュリティー推進協会(SP2)からDXマーク認証を取得。県内第1号の認証となった。さらに翌3月には経産省のDXセレクション2023で優良事例に選定。製造業が目立つなか不動産会社のDXとして注目された。「知名度と信頼度が上がり、営業活動にもいい影響が出ている」と平川氏は話す。
今後5年間で新規に15店舗、DX支援で本業のバックアップも
こうした実績を積み重ねて自信を増した同社は新たな目標に向かっている。まずは、もともとDX推進の契機となった店舗展開。今後5年間で佐賀県内10店舗、福岡県内5店舗を新たに開設する考えで、今年8月頃には佐賀県内で2店舗(鹿島市、小城市)が相次いでオープンする予定だ。
とくに佐賀県内では人口の多い佐賀市周辺に偏ることなく、県内全域をカバーする店舗網の構築を目指す。不動産取引では基本的に売買価格の3%が不動産会社の仲介手数料収入となるため、物件価格が高い都市部でのビジネスは盛んになる半面、地方ではおろそかになりがち。「地域密着を掲げている当社としては、県内まんべんなく取引に関与していきたい」と平川氏。
次に、DX支援の事業化を進めていくことも目標としている。具体的には、佐賀県産業スマート化センターと協力し、kintoneを活用したDXに関するコミュニティを同センターのサイト上に立ち上げる考えだ。この種のコミュニティは、ややもするとプロ集団の集まりになる傾向にある。同社では、商店街の個人事業主や商店主などDXに不慣れな人たちが参加しやすい形にしていくという。
ただ、DX事業はあくまでも本業をバックアップするものとの位置付けだ。コミュニティに参加する商店主らから「新しい店舗を探している」「今の店舗を手放したい」といった不動産売買の相談を受け、担当者につなぎたいとしている。
現状に甘んじることなく進化を続ける
平川氏の座右の銘は「現状維持は後退である」。ウォルト・ディズニーや松下幸之助をはじめ古今東西あまたの偉人に語り継がれてきた名言である。「なぜディズニーランドはいつ行っても楽しいのか。それは『ディズニーランドは永遠に未完成』という(ウォルト・ディズニーの)想いを受け継ぎ、常に成長を続けているからだ」と語る平川氏。「われわれも現状に甘んじることなく、今後も進化していきたい」。古代ギリシャの改革者の名を看板に掲げる同社はさらなる変貌を遂げようとしている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ソロン
- Webサイト
- 設立
- 1996年4月創業、2009年1月法人化
- 資本金
- 300万円
- 従業員数
- 26人
- 代表者
- 平川浩美 氏
- 所在地
- 佐賀県佐賀市神野東2-2-1
- Tel
- 0120-23-8283
- 事業内容
- 不動産の売買仲介、不動産買取再販、不動産コンサルティングなど
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