[8日 トムソン・ロイター財団] - 世界の注目が集まる一方で、競技条件はとうてい平等とは言えない。これが2023年FIFA女子ワールドカップ(W杯)だ。選手は同じように奮闘しているのに、報酬も賞金も男子に比べればはるかに少ない。
W杯に限っても、男女の報酬には75%もの格差がある。トップ選手の間では組合を結成し、これまでの話し合いではらちが明かなかった格差解消に向けて団体交渉に訴えようという動きがある。
W杯が始まると同時に、そうした動きの先頭に立ったのが、共同開催国であるオーストラリアだ。サッカーの国際統括団体である国際サッカー連盟(FIFA)が、この素晴らしい競技に、これほどまでの男女格差を根付かせたままにしている、と批判した。
「マチルダズ」の愛称で知られるオーストラリア女子代表チームは、ソーシャルメディアのアカウントで公開した動画で、「団体交渉によって、私たちは今や(男子のオーストラリア代表の愛称)『サッカルーズ』と同じ待遇を得られるようになった。だが、例外が1つある」と述べている。
「FIFAは、いまだに女子チームに対して、同じ成績の男子チームの4分の1しか賞金を提供しない」
前進は見られるものの、いまだにサッカーの各カテゴリーにおける女子選手の収入は男子より少なく、練習環境にも恵まれず、複数の仕事を掛け持ちし、国際大会に出場するために無給の休暇を取らざるをえない場合も多い。
FIFAは3月、女子W杯に参加する全選手に最低3万ドル(約430万円)の出場報酬を保証すると発表した。これは大会史上初めてのことだ。
この措置については、 国際プロサッカー選手協会(FIFPRO)との間で交渉が行われた。交渉を支えたのは、平等な報酬と条件を要求するFIFA宛ての書簡に共同署名した150人以上の選手たちだ。
賞金総額1億1000万ドルは2019年女子W杯でFIFAが提供した額の約3倍だが、カタールで開催された2022年男子W杯における4億4000万ドルの賞金にははるかに及ばない。
世界各地の選手組合にとって今回の増額は歓迎すべき成果だが、FIFAは2027年女子W杯までに賞金を男女平等にするという公約を達成しなければならない。
FIFPROのヨナス・バエルホフマン事務局長はトムソン・ロイター財団に宛てたメールで、「関係者はこうした格差を長年にわたって放置してきたが、これは女子サッカーの成長を最大化させるためだけではなく、原理原則の問題でもある。女子選手は男子選手と同等の敬意を示されるべきだ」と語った。
ここ数年、組合を通じて組織化を進めた女子サッカー選手たちは、競技環境の変化につながる有利な交渉結果を勝ち取ってきた。
2022年、米国女子サッカー代表(USWNT)との3年にわたる争議の結果、米国サッカー連盟は、全ての親善試合と、W杯を含む国際大会において、女子代表と男子代表に平等な報酬を支払うことを約束した。
同じ年、コスタリカの選手組合は交渉の成果として、すべての賞金、日当、遠征条件を男女平等とするというラテンアメリカ初の協定を結んだ。
これに似た協定はニュージーランドや英国でも実現しているが、それでも女子サッカーの世界では、まだ例外である。
<足元は不安定>
同一の大会に参加しているにもかかわらず、女子W杯で戦う全ての選手たちが同じ条件でプレーしているわけではない。
各国における取り決めがバラバラであるため、参加32チームの選手にとって報酬や参加条件はまったく異なっていると指摘するのは、タッカー女子スポーツ研究センターの博士課程に在籍するアンナ・グーレビッチ氏。
グーレビッチ氏は「画期的な団体協約に署名して(報酬の)男女平等を実現した米国代表のようなチームもあるが、交渉しなければ出場手当すら得られないようなチームもある」と語る。
FIFPROによる最近の報告では、予選に参加している各国代表チームの間でも、トレーニングやリカバリーのための施設、医学的な治療やメンタルヘルス支援の利用という点で平等が実現していないことが分かる。
66%の選手は、大会に参加するために副業の方で無給の休日・休暇を取らざるをえず、またW杯の予選では各国代表選手の29%が完全に無報酬だった。
グーレビッチ氏は「次の給料がいつもらえるか気にしているようでは、本来の能力を十分に発揮して最高のアスリートになることはできない」と語る。
世界各地の女子サッカー選手たちは、男子選手と対等の条件を得るために団体行動に訴えている。
カナダでは、東京五輪で金メダルを獲得した女子代表チームが、予算削減の動きに対して、強化合宿の日数やスタッフの人数、ユースチームの活動に影響するとして、2月にストライキ決行を辞さない態度を示した。
W杯期間に入り、カナダ女子代表は、賞金に関して国内統括団体であるカナダサッカー協会と暫定合意に達したと発表した。
大会直前には、南アフリカサッカー選手組合と同国サッカー連盟の間で、賞金と契約に関する争議が決着に至った。
似たような争議はスペインやフランス、ザンビアでも起こっており、選手たちは公正な報酬と協会首脳陣の交代を要求し、W杯終了後も、かなり長引く可能性が高い。
サッカー選手組合にとって平等に向けた次の一歩は、FIFAと全ての国内協会が、一連の拘束力のある最低基準を導入することだ。
バエルホフマン氏は「納得のいく金銭的報酬、長時間フライトの際のビジネスクラス利用、医療支援、妊産婦の保護と支援、リカバリー施設などが基準として含まれるべきだ」と語る。
<低賃金、無契約の選手も>
データから分かるように、W杯で見られる男女格差の背景には、プロのクラブやリーグにおける低賃金や無契約、男子に比べて劣った練習環境といった女子選手が直面する状況がある。
FIFPROが2017年に発表した報告書では、女子選手の報酬は平均月600ドルだった。47%の選手については文書による契約が存在しなかった。
「劣悪な報酬や労働条件のせいで、才能ある女子選手たちは本来の能力を十分に発揮できていない。経済的・社会的不安ゆえに複数の仕事をこなさなければならないからだ」とバエルホフマン氏は言う。
「若手の女子選手の多くが、結局は他のキャリアを探すことを余儀なくされる。サッカーでは十分な収入を得られなかったり、劣悪な条件に不満を感じたりするからだ」
元プロ選手のパオラ・ロペスイリゴイエン氏は、3つのメキシコのクラブと、2017年に発足した国内トップの女子リーグで、身をもって男女格差を感じたと話す。
ロペスイリゴイエン氏はトムソン・ロイター財団のインタビューで、当時はプロサッカー選手として129ドル(2200メキシコペソ)の給与を得る一方で、副業もこなし、政治学の学位に向けて勉強していた、と語った。
「コーチから栄養士に至るまで、誰もが不当に低い賃金で働いている」とロペスイリゴイエン氏は言う。契約を巡って何度かもめた後、彼女はプロサッカー界を去った。
ロペスイリゴイエン氏は、男女格差のために競技能力にも影響が出たと話す。天然芝での練習ができない、最善の理学療法士に診てもらうことができないといった問題だ。
複数のスポーツ専門家は、労働条件が改善しつつあるとはいえ、依然として女性がサッカーを職業とする道はきわめて限られていると指摘する。
「要するに、女子サッカーはせっかくのチャンスを逃しているということだ」とバエルホフマン氏。
「サッカー関係者は、こうした格差を是正するために今よりもずっと努力し、これまでの抑圧を償う必要がある」
(翻訳:エァクレーレン)
からの記事と詳細 ( 焦点:サッカー界の男女待遇格差是正へ、W杯で勢いづく組合交渉 - ロイター (Reuters Japan) )
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