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Wednesday, March 15, 2023

エネルギー危機の今、あらためて考えたい「エネルギー安全保障」 - 経済産業省 資源エネルギー庁

第1次オイルショックから約50年。2022年、世界はあらためてエネルギーの安定供給について考えることとなりました。エネルギー価格が高騰し、電気代やガス代の値上がりに困ったという声が、世界のあちこちであがっています。また日本では、2022年度の冬、電力の安定供給ができなくなる可能性が生じ、さまざまな行政機関や電力会社から「省エネ・節電への協力」を呼びかけるメッセージが発信されました。このような現在の“エネルギー危機”は、なぜ起きたのでしょうか?国やエネルギー関連企業は、今後もエネルギーを安定的に供給するために、どのような対策をおこなっているのでしょうか?今あらためて注目の集まる「エネルギー安全保障」について、皆で考えてみましょう。

日本を取り巻くエネルギー情勢に変化

もし「2022年の印象的な出来事」を尋ねられたら、多くの人がロシアによるウクライナ侵略を挙げるでしょう。ウクライナではたくさんの民間人も犠牲となっており、激しい戦闘にいまだ終わりが見えないのは大変心苦しいことです。さらに、その影響は両国ばかりでなく、さまざまな形で世界の国々にもおよんでいます。

中でも深刻なのは「国際エネルギー市場の混乱」です。世界屈指のエネルギー大国であるロシアは、これまで多くの石油や天然ガス、石炭を国外に輸出していました。ところが、ウクライナ侵略以降、ロシアが天然資源の輸出量を絞り西側諸国に圧力を加えたことや、ウクライナ侵攻に対する制裁として西側諸国がロシア産資源の禁輸措置などをおこなったことで、国際的なエネルギー供給に大きな影響が生じたのです。

たとえば、ロシア産エネルギーへの依存度が高かったドイツでは、2020年には天然ガスの約55%をロシアから輸入していました。ウクライナ侵略から5か月ほどが経過した2022年7月末時点におけるロシアからのガス輸入量は大きく低下しています。

このような結果、国際エネルギー市場における需給のバランスは大幅に崩れ、世界的にエネルギー価格が高騰する状況へとつながっています。

国際エネルギー市場における需給のバランスがタイトになる中、インド、東南アジアなどの新興国におけるエネルギー需要は、各国の経済の発展にともなって増加し続けています。国際機関のレポートによると、2050年のインドにおけるエネルギー需要は、2010年にくらべて、天然ガスが3.2倍、原油が2.8倍、原子力についてはなんと11.2倍になるとも予測されています。このようなニーズの高まりは、将来的なエネルギー価格の上昇に影響する可能性があります。

また、原油などエネルギーの産出国側にも変化が起きています。かつてエネルギーの輸入国だった米国は、いわゆる「シェール革命」(「2018年5月、『シェール革命』が産んだ天然ガスが日本にも到来」参照)により、今や生産量が輸入量を上回り、エネルギーの「輸出国」へと変化。こうした変化は、エネルギー産出国・中東へのエネルギー輸入依存度の低下をもたらしました。また、アフガニスタンからの撤退など、米国による中東への関与のありかたに変化が見られるとする報道もあり、エネルギーの多くをいまだ中東に依存している日本としては、このような変化は、エネルギー調達リスクを高める可能性があるといえるでしょう。

日本は、中東諸国との友好関係の発展や、産油国と消費国の対話と連携を重視し、対話を促進するなどの取り組みをおこなっていますが、こうした国際情勢の構造的な変化は、日本にとってエネルギー安全保障を大きく揺るがすものだと言えます。

国内のエネルギー安定供給リスク

ここまでは世界で起こっているエネルギー危機の状況を見てきましたが、このような世界の動きと連動して、日本国内ではもう一つのエネルギー危機が懸念されています。議論の前提として、国内の電力市場の大きな変化に2点触れておきます。

日本では近年、「電力自由化」が進められ、2016年には小売の全面自由化が実施されるなど(「電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」参照)、電力システム改革が進められてきました。昔は、各エリアの大手電力会社が需要家に一括で供給をおこなっていましたが、電力自由化でさまざまな新会社が電気事業に参入。利用者には多種多様な料金メニューが提供されるようになっています。

もうひとつの大きな変化は、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大です。2012年には再エネで発電した電気を一定の価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT)」もスタートし、太陽光発電をはじめとした再エネの拡大を後押ししました。再エネは、主力エネルギーの1つとなることが期待されており、電源構成に占める再エネの割合は、2010年度の約9.5%から2020年度には約19.5%まで倍増するなど、導入が急速に進んでいます。

その結果、需要家である私たちの選択肢が拡大。また、電力の広域的な活用に必要な送配電網の整備が進みました。これにより、緊急時などにはより柔軟に地域間で電力を融通できるようになるといった成果が見られています。

一方で、政府の審議会などでは、この変化が最近の電力需給ひっ迫の要因ではないかと指摘されました。たとえば、再エネは時間帯・天気・季節によって発電量が変わる電源であるため、その変動を吸収して全体の発電量をととのえる、「調整力」となるようなほかの電源(火力発電など)の確保が必須となります。しかし、電力自由化以降、再エネ拡大により稼働率が低下した火力発電所は、休止したり廃止したりしているのが実情です。このような電源を維持する対応策が不十分だったことが、要因のひとつになったというわけです。

また、新設予定だった火力発電所の建設プロジェクトが中断されるなど、近年の世界的な脱炭素に向けた取り組みの加速による影響もあります。

安全保障の視点から、日本のエネルギーのあり方を考える

このように、日本は国内外にエネルギーをめぐるさまざまな課題をかかえています。
2022年度の冬を乗り切るため、国はさまざまな対策をとっています。たとえば、電気・ガスの事業者の間で液化天然ガス(LNG)を融通しあうための枠組みや、緊急時には都市ガスに使われているLNGを国が調達するようなしくみを整備するなど、LNGの安定供給に向けて取り組んでいます。

国際的なエネルギー資源の争奪戦が激化する中で、資源を安定的に確保するための取り組みも強化しています。アジア諸国と連携したLNG開発への投資や、危機が起こった時の協力などを検討するとともに、生産国への増産の働きかけも実施しています。

さらに、原子力発電所についても対策がおこなわれています。2011年に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、日本各地の原子力発電所は、順次、安全対策のために運転を停止しました。現在(2023年3月時点)は10基が、新たな規制基準をクリアして再稼働しており、稼働をできる限り確保するため、安全対策のための工事期間の短縮や定期検査スケジュールの調整に努めています。

加えて、設置変更が許可されている、つまり新規制基準をクリアした7基に関しても、規制をクリアすることにとどまらない自主的な安全性の向上や地元の理解を得ることに向けて国が前面に立って対応することで、着実な再稼働を目指しています。

こうしたさまざまな努力が、エネルギー安全保障の確保につながり、停電の回避やエネルギー価格高騰の抑制に役立ちます。

しかし、これらの対策だけでは、中長期的なエネルギー安全保障を確保するのには十分ではありません。こうした状況を放置していれば、やがてはエネルギー危機が常態化するようなことにもなりかねません。

日本のエネルギー安全保障を確保するためには、いったいどのようなエネルギーのあり方が望ましいのか。再エネは、原子力発電は、どのように使われるべきなのか。私たち一人一人が考えていかなくてはならない課題です。

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