東北の伝統的な和菓子が、昔ながらの味わいや技術を生かしつつ、現代的なスイーツへと変貌を遂げている。切るたびに絵柄が変わるアニメーションのような羊羹(ようかん)、チョコレートやドライフルーツをコーティングしたせんべいなど、見た目がかわいらしく、お取り寄せも可能な現代風和菓子を厳選した。
飛翔する羊羹「Fly Me to The Moon」
福島県会津若松市の老舗和菓子店「会津 長門屋」には、ジャズの名曲『Fly Me to The Moon』の名を冠した美しい羊羹がある。
長門屋の歴史は江戸末期の1848(嘉永元)年から始まる。「庶民のお菓子を作るように」という会津藩主の言葉を受け、造り酒屋の店主が創業した。当時、白砂糖を使った「上菓子」を食べられたのは、武家などの上流階級のみ。そのため、長門屋では比較的安価な黒糖、もち米やサツマイモのでんぷんを甘味料とし、くず米やアワ、豆などを原料とした「駄菓子」を中心に製造。以来、“庶民の暮らしに寄り添う菓子作り”を続けてきた。
明治・大正時代には甘くて栄養がある菓子パンも扱うなど、極力機械を使わない手作りを大切にしながら、時代を反映した菓子を生み出してきた。そして、近年取り組むのが「伝統菓子のリデザインシリーズ」だ。
きっかけは2011年の東日本大震災。福島第一原発事故による風評被害の影響で、店の将来について話し合いを重ねる中、「長門屋のお菓子を食べるとふるさとを思い出す。やめずに頑張ってほしい」と声を掛けられたという。店の歴史は客たちの歴史でもあり、子どもの頃から食べてきた菓子の味はふるさとの味でもある。伝統の技と味にこだわり抜きながらも、現代に合わせた創造性を付加して、菓子を作り続けていくことが老舗の務めだと気付いたという。
2017年に完成したのが「Fly Me to The Moon」。和菓子では季節の俳句や和歌を題材とすることが多いが、この羊羹はジャズの名曲がテーマ。菓子に込めた物語を、世界中の人がイメージしやすくするのが狙いだ。
長さ約10センチほどの羊羹を切ると、月へと羽ばたく青い鳥が出現する。カットする位置で羽の角度や月の満ち欠けが変化し、まるでパラパラ漫画のように鳥が月をめがけて飛んでいく。月と青い鳥は爽やかなレモン味で、会津の山並みは香り豊かな小豆の羊羹で表現した。夜空は寒天と砂糖を固めた透明な錦玉羹(きんぎょくかん)で、シャンパンを混ぜ込んで金色に輝く靄(もや)をかけている。レーズンやクランベリーもトッピングされているので、日本茶のみならず、紅茶、ワインとの相性も抜群だ。
会津 長門屋 七日町店
- 住所:福島県会津若松市七日町3-30
- TEL:0242-29-7070
- 営業時間:午前9時~午後5時30分
- 定休日:年末年始
- アクセス:JR七日町駅から徒歩すぐ
のし梅の甘酸っぱさと生チョコが調和する「玉響」
羽黒山と月山、湯殿山という山形県の霊峰を巡る「出羽三山詣で」。その参拝客に愛されてきた銘菓が、もっちりとした食感と梅の酸味が絶妙な「のし梅」だ。現在、のし梅は全国各地で製造され、土産物店などでよく見かけるが、一番歴史が古く、元祖とされるのが山形市の菓子店「乃し梅本舗 佐藤屋」である。
1821(文政4)年、医師の家系出身の佐藤松兵衛が創業。江戸時代には梅を煮詰めた気付け薬が使われていたが、佐藤家に伝わる製法に手を加えて和菓子「乃し梅」を誕生させた。試行錯誤の末、現在の形となったのは1870年頃という。山形産の完熟梅を使用した梅羊羹を数日間乾燥させるため、小振りで日持ちが良く、土産物として人気を呼んだ。
21世紀に入り、のし梅は「お婆ちゃんの家で食べたものという印象で、ひと昔前の菓子という認識になりつつあった」と、8代目店主の佐藤慎太郎氏は言う。代々受け継がれ、磨きをかけてきた和菓子を、現代の人たちが見直すきっかけになればと、のし梅とチョコレートを組み合わせた「玉響(たまゆら)」の開発に着手した。
参考にしたのは、砂糖漬けしたオレンジの皮をチョコレートで包んだ洋菓子「オランジェット」。酸味のあるオレンジは、のし梅に通じるものがあると考えたのだ。熱いチョコレートを掛けると、のし梅は溶けてしまうので、2つを組み合わせるスタイルとした。口解けが良いバターや生クリーム入りの生チョコでは、脂肪分が多くて後味が濃すぎる上に、常温では溶けるために土産物には適さない。解決策として、バターの代わりに白餡(しろあん)をチョコレートに混ぜてみた。すると、濃厚なカカオの香りとさっぱりした後味が両立し、溶けにくくもなったのだ。
佐藤氏は、「生チョコレート作りは、ショコラティエの友人たちに協力を仰ぎましたが、白餡を混ぜるという発想は、和菓子職人としての私自身の経験と勘が役立ったと思います」と語ってくれた。現在の佐藤屋のモットーは、“和菓子をちょっと自由に”。8代目は玉響以外の斬新な菓子作りにも、日々挑戦し続けている。
乃し梅本舗 佐藤屋
- 住所:山形県山形市十日町3-10-36
- TEL:023-622-3108
- 営業時間:午前8時30分~午後6時
- 定休日:1月1日
- アクセス:JR山形駅から徒歩10分
色彩豊かな南部せんべい「Chopetto」
青森県八戸地方や岩手県北部で育まれた「南部せんべい」。塩と小麦を水で練り、円形の専用型で焼いた伝統菓子で、かむとバリッと音が鳴るほど固く、型からはみ出した薄い“耳”部分が残っているのが特徴だ。味はほんのりとした塩味で、生地にゴマやピーナッツを入れたものもある。
その南部せんべいに、「見た目がかわいくておしゃれで、食べる時も楽しくなる」をコンセプトに、カラフルなアレンジを加えたのが「Chopetto(チョペット)」。八戸市のライフスタイルコーディネーター・大粒来里紗(おおつぶらいりさ)氏が、地元のスイーツ店「MANODO&CORTE(マノドアンドコルテ)」や南部せんべい店と協同で制作した。ベルギー産のチョコレートやナッツ、ドライフルーツをトッピングし、バラの花びらをちりばめた種類もあり、見た目と味、香り、食感と、全てが新感覚のせんべいとなっている。
hati style
- 住所:青森県八戸市廿三日町41-2
- TEL:0178-32-7892
- 営業時間:午後1時~午後7時
- 定休日:不定休
- アクセス:JR本八戸駅から徒歩16分
- 通販ページ:https://hatitane.thebase.in/
ポップに進化を遂げた仙台駄菓子「仙台ここち きよせ」
江戸時代初期に仙台藩を開いた伊達政宗は、茶道に精通しており、城下町に住む庶民にまで広めたといわれている。茶には菓子が付き物だが、上白糖を使った菓子は高価だった。そのため、藩から払い下げられた米や粟などを乾燥させて作る携帯食「糒(ほしいい)」を加工した低価格のお茶請け「仙台駄菓子」が生まれ、庶民の間で普及していった。
1937年に創業した「仙台駄がし本舗 日立家」で人気なのが、仙台駄菓子を現代風にアレンジした「仙台ここち」。自慢のおこしや餡玉の他、ゆずやトマトで味付けをしたゼリーや、練ったきなこを四角く固めたものなど、すべて一口サイズで作られ、オレンジや赤のポップな箱に詰められている。
仙台駄がし本舗 日立家
- 住所:宮城県仙台市青葉区中央1-1-1 S-PAL仙台B1F
- アクセス:JR仙台駅から徒歩すぐ
- TEL:022-267-4049
- 営業時間:午前10時~午後8時
- 定休日:S-PAL仙台の休業日に準じる
取材・文・写真=シュープレス
(バナー写真=会津 長門屋の「Fly Me to The Moon 羊羹ファンタジア」)
からの記事と詳細 ( 伝統の味をスイーツへと進化させた東北和菓子4選:ジャズの名曲がテーマの羊羹、チョコをまとった南部せんべい - Nippon.com )
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