創業者がこう語った日本のスタートアップ企業が生成AIの進化版“デジタルクローン”を開発している。容姿や声だけでなく、性格や考え方もそっくりというクローンが本人の代わりに働く。未来のような現実がそこにはあった。
(経済部記者 名越大耕)
見分けがつかない…本人はどちら?
そんなスタートアップ企業があると聞き、取材を始めた。
訪ねたのは生成AI技術を手がけるスタートアップ企業「オルツ」。
一瞬では見分けがつかない…。
本人とクローンに同じ質問を投げかけてみた。
Q.好きなもの、嫌いなものはなんですか?
米倉社長“本人”
「好きなものはバスケ、カレーとハンバーグ。嫌いなものはグズグズした人ですね」
米倉社長“クローン”
「好きなものはハンバーグとカレー。嫌いなものはルーチンワーク。せっかちな性格なので、同じ仕事を繰り返すのは苦手です」
容姿や声だけでなく、答えの内容も似ていた。
働いてもらうために“そっくり”に
まずは自分のプロフィールをAIに読み込ませる。
AIがこれをもとに本人の性格などをとらえるのだろうか。
この項目数は無制限に増やすことができ、増やせば増やすほど本人そっくりになるという。
米倉社長は日々、項目を追加し、現在その項目数はおよそ1000にのぼる。
さらにふだん使っている電子メールやチャットの内容もAIと共有する。
会社の採用面接も1次面接はクローンの担当だ。
米倉千貴 社長
「AIで『全人類を労役から解放する』。労役って昔は、奴隷がやっていた仕事で、今は賃金をもらって労役みたいな仕事をやっている人が多いんですが、労役の仕事ってやってもやっても生産性はなかなか上がらないですよね。価格もどんどん安くなっている。こうした状況をみて、人間の労働生産性をあげるためには、AIやクローンが代替できることをやるべきだと思いました」
クローンは本人を超えるのか?
米倉社長は「クローンが新たに学習を行うことはなく、元の人物の知識を超えることは基本的にない」と即答した。
クローンが本人の知識を「超える」というよりは、「本人らしく」新たな情報を解釈し、回答する仕組みとなっているのだ。
さらに、米倉社長は「人間とクローンの違いは、感情の有無であり、今のクローンは人間のまねをしているだけだ」と答えた。
ただ、これから2~3年以内には新たな技術が開発され、感情を捉え表現できるAIが登場すると予想している。
米倉千貴 社長
「僕らのクローンは、本人といかに一致しているかというところに焦点をあてています。例えば買い物するときに、むだなものを買ってしまうのがまさに個性で、人間性というわけです。より人間らしいクローンを作るためには、それが必要なのです」
AIは人の仕事を奪うのか
たびたび指摘されるこの懸念について、2024年、IMF(=国際通貨基金)は、AIは世界の現在ある雇用のおよそ40%に影響を与えるという分析を発表した。
特に先進国では、およそ60%の雇用がAIの影響を受け、影響を受ける雇用のうち半数は賃金の低下や雇用の削減が起きる可能性があるとしている。
こうした懸念について、米倉さんは、きっぱりとこう言った。
「AIは仕事を奪うべきだと考えています」
AIには、強みである大量のデータ処理やルーチンワークなど、奪われるべき仕事を任せていくことが必要だという。
米倉千貴 社長
「僕は本当に自分がやりたいことをやるべきだと思っていて、それが一番生産性を生みやすいと思っているので、ある種自分には向いていないものについては奪われるべきだと思っています」
物事を決める最終的な決定権は、蒸気機関が登場したときも、インターネットが登場したときも、人間が持ち続けてきた。
「権限」さえ失わなければ、AIは人間のよい部分を引き出す最良なパートナーとなり、人間との役割分担ができるという。
米倉千貴 社長
「物事を決める権限を持っているのは人間で、クローンは一切の権限を持っていない。常に自分のために働くAIというものが何なのかを選別していくことが今後の人間に必要なことだと思います」
取材後記
それでは人間はどんな仕事をすべきなのか、その問いはとても厳しいものだと今回の取材を通じて正直感じた。
私の仕事(=記者)は、人の話を聞き、取材をして、原稿を書く。
生成AIを活用すれば、ある程度の文章作成を任せることも可能だ。
私の価値はどこにあるのだろうか?生成AIの助けを借りずにこの原稿を書きながら、ふと考えた。
(3月5日「おはBiz」で放送予定)
経済部記者
名越大耕
2017年入局
福岡局を経て現所属
AI、情報通信や電機業界を担当
からの記事と詳細 ( “デジタルクローン”が働く会社 | NHK | ビジネス特集 - nhk.or.jp )
https://ift.tt/VevE4nK
No comments:
Post a Comment